第1章「東日本大震災からの復旧・復興に向けて」の後半では、福島第一原発の事故による林業・木材産業への影響と対策、今後の課題が明らかにされています。
警戒区域、計画的避難区域および緊急時避難準備区域に指定された11市町村には、面積の約62%、約13万haの森林が所在。これらの森林では、警戒区域等への立入禁止により下刈や間伐等の施業が困難となっている他、高性能林業機械の放置、作業現場の放射能汚染度測定と現場作業への不安、きのこ用原木の納入停止、従業員の解雇・休業などにより、多くの損害が発生しています。
また、特用林産物については、原木しいたけ、原木なめこ、野生きのこ等の出荷制限(地域によっては摂取制限も)が、福島県および近隣の県において指示されました。その後、林野庁は、きのこ原木及び菌床用培地に関する放射性セシウム濃度の指標値を定め、2012年4月からは原木:50Bq/kg、培地:200Bq/kgと設定。各都道府県及び業界団体に対して、指標値を超えるものの生産・流通が行われないよう要請しました。
この他、堆肥用原料等となる樹皮や、薪、木炭、イノシシ・クマ・シカ肉などの出荷制限についても記述があり、放射性物質の汚染による林業への影響が総括的に報告されています。
続いて、農林水産省、林野庁が行っている福島県の森林におけるモニタリング調査についてまとめられています。
福島県内の森林の放射性物質による汚染状況(地上1mの空間線量率と落葉層及び土壌における放射性セシウム濃度)を、80km圏内外の計391か所で測定し、結果を公表した。
森林内の放射性物質の分布状況を調査。この中で、原発からの距離が異なる3か所(福島県川内村、大玉村、只見町)において、森林内の土壌や落葉層、樹木の葉や幹等の部位別に放射性セシウム濃度と蓄積量を測定。この結果、同じ調査地でも「樹種毎」に数値が異なること、スギ林では樹冠の葉や落葉層に、コナラ林では地上の落葉層に放射性セシウムが多く分布することなどがわかった。
その後も、この調査を踏まえて、森林内での放射性物質の動態を把握するための詳細な調査が行われている。
スギ雄花やその花粉に含まれる放射性セシウム濃度について調査、2012年2月に福島県他15都県のスギ林182か所における調査結果をまとめた。調査の結果、雄花の濃度は最も高いスギ林で1kg(乾燥重量)あたり約25万Bqとなった。これらをもとに人がスギの花粉を吸入した場合に想定される内部被ばく線量を試算すると、最高値として毎時0.000192μSvとなった。
この他、放射性物質が木材製品や特用樹等に与える影響、放射性物質の拡散防止・低減に向けた技術の実証、保育・伐採等の森林施業による放射性物質拡散防止・低減効果の検証等も実施されています。
ここでは、農林水産省、環境省、林野庁が実施している除染に関する取組の概要を知ることができます。
林縁から20m程度の範囲を目安として落葉樹等の堆積有機物の除去を行う、落葉樹の除去で十分な効果が得られない場合には、立木の枝葉等の除去を行うことなど、除染のポイントを農林水産省が公表。
「森林の除染実証試験(下草・落葉の除去)結果について」より除去の様子
上記を踏まえ、2011年12月に森林の除染を行うガイドラインが示された。
- 落葉広葉樹林では落葉等を除去することによって高い除染効果が見込まれること
- 落葉等の除去は林縁から20m程度の範囲を目安に行い、状況を観察しながら徐々に面積を広げること
- 急な斜面で堆積有機物の除去を行う場合は、土のう等によって土壌の流亡を防ぐこと
- 落葉等の除去で効果が得られない場合には、立木の枝葉等の除去を行うこと
などであり、現在この指針に沿って各地で除染の取組が進められている。
各地で除染作業が進む中、大量の汚染土壌が発生。これらを一時的に保管する仮置場として、国有林野を使用したいとの要請が地方公共団体等から寄せられている。林野庁では、このような要請に対して、国有林野の無償貸付等により協力する考え。
加えて、農林水産物の損害賠償に関する指針策定等の取組についても、記述があります。
森林・林業分野において原子力災害からの復興を図るためには、以下の課題に取り組む必要がある、と7つの課題が挙げられています。
東京電力福島第一原子力発電所周辺の森林における放射性物質汚染状況の把握
現在も実施しているが、さらに除染を進めるためには早急かつ詳細な状況把握が必要
森林における放射性物質の動態に関する知見の収集
チェルノブイリ原発事故後の調査研究を参考にしているが、森林生態系が異なる点も多いため、継続的なモニタリング調査が必要
放射能汚染からの林業労働者の安全確保
森林における林業生産活動の再開は不可欠のため、森林汚染状況を把握するとともに、林業労働者への情報提供、安全確保が必要
木材・特用林産物への影響の把握と安全確保に向けた対応
現時点では、きのこ類等の食用となる特用林産物や樹皮を原料とする堆肥・敷料、きのこ原木・菌床用培地、調理加熱用の薪・木炭等については指標値を設定。今後も継続的な調査により、放射性物質による木材や林産物への影響を把握し、対策を実施することが必要
効率的・効果的な除染技術等の開発
除染実施箇所の優先順位付け、効率的な除染の実施、除染技術や拡散防止技術の早急な開発が必要
円滑な損害の賠償
森林・林業分野の復興を促進する観点から、円滑な損害賠償を進めていくことが必要
長期的な取組の継続
森林の汚染は極めて広範にわたるため除染には長期的な取組が必要。また、除染から生ずる汚染土壌の仮置場、中間貯蔵施設、最終処分という課題もある
このように、汚染実態の詳細調査から、除染、安全確保、損害賠償、汚染土壌の処理等の課題が示され、「環境省を始めとする関係省庁と連携して、長期的に除染対策等に取り組む必要がある」と、結んでいます。